一生付き合う言葉
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大学の「日本語表現法」の授業は、先日が後期最後で無事に終了しました。その最後の授業では、1番身近な言葉を取り上げました。「皆さんが一生付き合う言葉について考えます。生まれた時からそれぞれ1人1つずつ持っていて、長い人生、今後もずっと付き合っていく言葉は何ですか?」
首をかしげる学生たち・・・しばらくして、ポツリと「なまえ?」という声が聞こえました。
はい、名前です。健康で無事に生まれてほしいなど、子供を授かった時から生まれるまでの願い。そして無事に生まれてからも、優しい子、たくましい子、元気で明るい子、親の子を思う気持ちは無限です。
その無限にある願いの中で、我が子への願いを一言で表している言葉が「名前」だと思うのです。もちろん、祖父母や尊敬する人に名付け親になってもらうなどもありますが、それも含めて親から子への願い。
画数を見てもらったり、本を片手に考えたり、実在の人物のようになってほしいとその人の名前から1字もらうなど、名付け方も様々ですが、いずれにしても、我が子の幸せを願う気持ちに変わりありません。
授業では、新潟日報に寄せられた高校生の投稿を取り上げました。「名前の大切な意味気付く」がタイトルで、新潟県南魚沼市の女子高生の文章を紹介しました。以下、一部引用します。
「今となっては胸を張って言えるが、小学校低学年の頃は『変わった名前だね』と言われるのが嫌で好きじゃなかった。しかし名前の由来を聞いてからはそうは思わなくなった。確かに変わった名前だと思う。でも、大切な意味が込められた私だけの名前だと気付いた。」
この記事をきっかけに、まずは、自分の名前にはどんな由来があるのか、どんな願いが込められているのかということをご両親に聞いたことがあるか尋ねてみました。皆さんは、いかがでしょうか?
田巻は小学校高学年の頃、自分の名前について親に聞き作文を書く授業がありました。そのような授業はなくても、自分の名前の由来は皆知っていて当り前だと思い込んでいました。
ところが、自分の名前について親に聞いたことがあるという学生は3分の1にも満たなかったのです。半数以上の学生が自分の名前の由来を知らないなんて、アンビリーバボ~!
半年かけて言葉について伝えてきた田巻にとって、1番身近な言葉の意味を知らないことはショックでありました。名前自体、親が頭を悩ませて考えた「言葉」であるとは思ってもみなかったというのです。
授業はグループワークで、聞いたことがある人はそれを発表し、聞いたことがない人は、込められた願いを想像して話してもらいました。各グループ、友人の名前の由来にうなずいたり、拍手がおこったりと弾んでいました。
さらに、グループで選ばれた1人が全員の前で発表し、友人の名前について様々な発見をしたのでした。ちなみに私の名前 華月(かつき)も大変珍しいため、幼い頃はよくからかわれたものです。
なぜこんな変な名前をつけたのかと名付けた父を困らせたこともあります。そして、幼い頃は父も母も口を揃えてこう言ったのです。「とてもいい名前だと、いつかわかるときが来るよ」
小学生で作文を書くときに教えられたことは、華やかな月のように美しく・・・なんとなく想像できたことでした。想像を超えて教えられたのは、旧姓 大平華月 と書くと、全ての字が左右対称で表から見ても裏から見ても同じことから、裏表のない人間であるように。どんな時でもどんな人にも分け隔てなく接することができる人であるように。
考えた名前がたまたまそうで、こじつけのようにも思いましたが、小学生の田巻には強烈に残ったのでした。のちに、皇室の華子さまがご成婚されて間もなかったことから「華」の字をいただいたなど追加情報もあり、自分自身の名前を少しずつ落とし込んでいったように思います。
ところがここにきて、50年生きてきて親から言われたこともない理由が自分のなかで生まれてきたのです。これまでの人生、事故にあって死んだも同然の経験や親の借金を背負ったり、流産したりと様々な経験ができたのは、人の痛みがわかるための修業。
今後はまさに裏表なく、いろいろな悩みや痛みをもつ人に寄り添える人間になりたいと思っています。アナウンサーとしても講師としても、人・物・事に光をあてる・・・暗闇を照らす「月」のように、それぞれの道に寄り添い光をあてて、「華」を咲かせるお手伝いをするのが私の使命ではないかと思ったのです。
名前についてこんなことを考えたと話したくても、残念ながら今は亡き父ですが、天で美しい月を間近で見ているかもしれません。
そんな田巻は、息子にはこんな名前をつけました。
「志道(しどう)」
志を持って自分の道をしっかり歩んでほしい。志は一筋、道は幾筋自分がやりたいこと、志を持てば、そこにたどり着く道はいくらでもあるという意味です。彼は幼い頃から何度も言われているので、さぞ聞き飽きたとは思いますが・・・(笑)
名前は、その子の人生の始まりに、親が頭を悩ませて考えた言葉。「親から子への最初のプレゼント」です。願いを込めた言葉である名前を呼ぶことで、こうなってね、こう願っているよと伝えています。
日本語表現法の教え子たちは、皆1年生。成人式を迎える今年、ご両親と名前のことを話してみるのもいいと伝えました。彼らの瞳の奥に、ふと子供のような表情を見たように感じました。
親からもらった一生付き合う言葉ですが、ある程度の節目で、自分の名前の意味を自分で考えてみるのもいいかもしれません。人は自分で親を選び生まれてくる、自分で決めた名前を親につけてもらうと聞いたことがあります。
そうだとしたら、「考えてみる」より「思い出す」という方が合っているのかもしれません。皆さんも思い出してみませんか?
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