「ない」のに、「無い」では、ない

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最近、見たり耳にした言葉です。

「年の瀬も押し迫り、何かとせわしい時期となりました」

「師走の声を聞くと、せわしないですね。毎日バタバタで・・・」

「せわしい」と「せわしない」

漢字で書くと、「忙しい」「忙しない」ですね。

広辞苑でそれぞれを調べてみると、

せわしい【忙しい】

事が多くて暇がない。いそがしい。
動きが急である。ゆったりしていない。はげしい。
落ち着かない。せかせかしている。

せわしない【忙しない】

いそがしい。落ち着かない、せわしい。

おっ！「せわしない」の意味に、「せわしい」と出てきました。結果、一緒の意味ということですが、どんな違いがあるのでしょうか？「せわしない」は、「ない」がついても、なぜ「せわしい」と同じ意味なのでしょう。

広辞苑の「せわしない」にはこんな説明が付けられています。

「ない」は甚だしいの意。

明鏡国語辞典では、「ない」は意味を強める接尾語と説明されています。甚だしいとは、普通の程度をはるかに超えているということなので、落ち着かない度合いを比べると・・・

せわしない　＞　せわしい　「せわしない」は、「せわしい」よりも忙しい状態を表す表現ということになります。

「ない」が本当に「無い」意味か、「ない」のに、「無い」ではない言葉か。

「そっけない」「あじけない」「かぎりない」などは名詞　＋「無い」で、否定の意味を含む形容詞です。

「ない」のに、「無い」ではない言葉、「せわしない」と同じような言葉は、「あどけない」「せつない」「はしたない」などが思い浮かびます。「あどけ」が「ない」のではなく、一言で、子供の態度や様子がかわいらしいということを強めた言葉。

「せつない」は、悲しさや寂しさ、恋しさなどで胸が締め付けられるような気持を表した言葉。

「はしたない」は、行儀が悪く見苦しく、下品であることを強調した言葉。などがあります。

「せわしい」「せわしない」に話しを戻しますね。

「忙しい」と漢字で書くと、「いそがしい」「せわしい」とどちらに読めるのも厄介です。

「いそがしい」の意味は、

用事が多くて他のことにかまっていられないこと。多忙。
落ち着きがなくせかせかと動き回るさま。せわしい。せわしない。

結果、意味はだいたい一緒ですが、どの言葉を選ぶのか、言葉の響きや文字からくる印象もあります。

心を亡くすと書く「忙しい（いそがしい）」この「忙しい」の言葉遣い。例えば、目上の人に話しかけるときは、「お忙しいところ、失礼いたします」よりも、「ご多用のところ、失礼いたします」の方が、「いろいろと用事も多いなか、お時間を頂戴して恐縮ですが」という思いが込められているので、より使いやすい言い回しでしょう。

以前配信した内容に詳しく書いています。

メルマガNo.87「『忙しい』VS『暇』」

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