ぞっとする？しない？

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ノートパソコンに向かって、この原稿を書いています。普段なら大学の授業の準備をしながら、愚痴の一つも言いたくなりますが、こうして原稿が書ける幸せを噛みしめています。

先日、恐ろしい夢を見ました。

タクシーのなかにノートパソコンが入ったカバンを忘れ、急いでタクシー会社に連絡するも、どこにもないと言われるのです。仕事をするにも、パソコンがないと何もできない、しかも膨大な仕事のデータを一瞬にして失う恐ろしさ。

ガバッと起きて、大きなため息と共に、「夢でよかった～」と声に出しました。ある意味、恐怖映画のように「ぞっとする」夢でした。

「ぞっとする」という表現は、恐怖などを感じて、からだが震え上がるという意味です。

ところで、「ぞっとする」に対して、「ぞっと」に「しない」が結びついた「ぞっとしない」という言い方があります。「ぞっと」を否定しているということは、「恐ろしくない」という意味のように思えますが、実はそうではないのが、日本語の難しいところです。

「ぞっとしない」の意味は、「面白くない」「感心しない」という意味です。各辞典には、特に驚いたり感心したりするほどではない。あまり感心しない。いい気持ちがしない。それほど感心したり面白いと思ったりするほどでもない。などの意味が並びます。

つまり「ぞっと」は、「する」と「しない」とで、「ぞっと」の意味が異なる言葉です。

文化庁が発表した2016年度の「国語に関する世論調査」では、「今回の映画は、余りぞっとしないものだった」を、「面白くない」と「恐ろしくない」の、どちらの意味だと思うかと尋ねたところ、「面白くない」と答えた人が、22.8パーセント、「恐ろしくない」と答えた人が、56.1パーセントという結果になりました。

「ぞっと」という言葉自体を辞典で引いてみると、恐ろしさなどでからだが震え上がるようなさまという意味の他に、「美しいものなどに出会ったときに、強い感動が身内を走り抜ける」という意味があるのです。「ぞっとしない」はそれを否定した言い方です。

「ぞっとしない」という表現を日常的に使っている人は、かなり減っているように感じますが、「する」と「しない」では、まったく違う意味になるだけに、気をつけたい言葉の一つです。