「やむ」を得ない?
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大学で担当している田巻の授業では、毎回、感想を提出させます。三つの授業を合わせると、毎週200人を超える学生の感想に目を通すのです。
自分の考えを文字にすることで、頭の中が整理されるので書かせていますが、「だ、である」の常体と、「です、ます」の敬体の混在や、言葉遣いや漢字の間違い、話し言葉などなど、指摘箇所があふれています。
毎週読みながら、ため息、イライラ、しまいには笑うしかない、ときもあります。先日も目を疑う表記がありました。
「前回の授業は、『やむおえない』事情で、欠席させていただきました」。「を」が「お」になっていたのです。
もしかしたら、勘違いしている若い世代もいるのかと調べてみると、「やむおえない」はじめ、「やもうえない」や、さらには「を」が落ちてしまった「やむえない」なども検索で出てきます。
また、「やむおえない」は「やむ」+「おえない」と勝手に解釈して、「おえない」を「終えない」「負えない」「追えない」など、間違いを探すときりがありません。
辞書編集者の神永暁氏も、この「やむを得ない」を『さらに悩ましい国語辞典』のなかで、「なんと誤用のバリエーションが多い語なのか」と言っています。
「やむを得ない」や「やむを得ず」の「やむ」は「止む・已む」で、今まで続いてきたことがそこで終わりになるという意味です。
「得ない」はできないという意味なので、「やむを得ない」で、とどまることができない、さらには、仕方がない、ほかにどうすることもできないという意味になります。
不満足ではあるが、あきらめるほかはない、望まないことを消極的に受け入れるというニュアンスのある語ですが、この語を使うことで、少々、言い訳が正当化される気もします。
このように、耳から聞いた言葉をそのまま文字にして間違う場合も多いものです。
恥を忍んで言うと、田巻は中学生の頃まで、「雰囲気」を、「ふいんき」と言っていました。耳から聞いた言葉を漢字を考えずに、なんとなく、それこそ雰囲気で口にしていたのです。
漢字をよくよく見て、「ふんいき」だと気がついた時の衝撃といったら・・・
さらには、昔のアニメ『巨人の星』の主題歌で、星飛雄馬が、グラウンドの整地用ローラーを引いている画像に流れる「思いこんだら~」の部分。耳で聞いて画像から想像し、頭のなかの文字は「重いコンダーラ」。
長い間、整地用ローラーは、「コンダーラ」という道具だと思い込んでいました。
後に、この巨人の星の「コンダラ」説は、多くの人が勘違いをしていたというのを知り、少々、ホッとしたものです。
やむを得ず、やむを得ない話でした。
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