せっかくなので、「せっかく」の話
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10月に奈良県の春日大社で開催される行事といえば、「鹿の角切り」。古都奈良の秋を彩る勇壮な古式で、江戸時代から今日まで約340年にわたり、鹿と奈良の人々との共生の中で受け継がれている伝統行事です。
その行事が、新型コロナウィルスの影響により、昨年につづき、今年度も開催を断念したと知りました。
動物の角を折ることを、「折角」と言いますが、そのニュースを見て思い出したのが、「せっかくですが」などの言葉遣いです。
ビジネスシーンなどでは、
・せっかくのお誘いですが、その日はあいにく先約がありまして・・・
・せっかくのご厚意を、ほんとうに申し訳ございません。
・せっかくご足労いただきましたのに、ちょうど外出しておりました。失礼いたしました。
・せっかくお時間を頂戴しておきながら、ご期待に沿えず申し訳ございません。
などなど、使う場面も多い言葉です。
この「せっかくですが」などは、ひらがなで表記することが多いので、漢字を思い浮かべることがないかもしれません。
漢字で書くと、「折角ですが」となるのです。
広辞苑で「せっかく【折角】」を引いてみると、以下のような意味があります。
名
- 力を尽くすこと。骨を折ること。心を砕くこと。
- 困難。難儀。
- めったになく、大切であること。特別。
副
1 十分気をつけて。つとめて。
2 (多く「…のに」の形で)努力や期待が酬いられなくて残念だという気持ちを表す。
また、広辞苑にはその語源として、「一説に、頭巾の角を折る意で、わざわざすること。後漢の林宗がかぶっていた頭巾の角の片方が雨にぬれて折れ曲がったのを時の人がまねて、わざと一方の角をまげて林宗巾と呼んだという故事による」とあります。
また、他の辞典には、「力を尽くすこと」の意味の「せっかく」も、中国の故事に基づくと説明しています。
その昔、朱雲という人物がそれまで誰も言い負かすことができなかった五鹿に住む充宗という人物を言い負かしたことが語源で、そのことを人々が「よくぞ鹿の角を折った」と讃えたことから「せっかく」が誕生したというものです。
語源だけ見ると、本当に動物の角を折ったわけではなさそうですが、YouTubeで、鹿の角切りの過去の行事の様子を見ると、鹿を捕まえるのも大変なところを、さらに、暴れる鹿の角を切るのはもっと大変でスリリングです。
秋の風物詩として見物するのはいいかもしれませんが、実際に行う人たちは大変な苦労を伴います。相手が自分のためにしてくれたことを持ち上げて表現するのは、相手の気持ちを慮ってのことで、だからこそ、相手の顔も立つものです。
「あなたがしてくれたことは大変だったでしょう。それなのに・・・」と、残念であると同時に感謝の気持ちを伝えています。
「せっかく」は、思いやりの言葉と言えそうです。いっそのこと、動物の角を折るくらい大変なことをしてくださって・・・と語源を付けたしたいところです。
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