カリフォルニアのディズニーランドが、今年開園70周年を迎えたそうです。28年程前。結婚前に、当時ロサンゼルスにいた夫を訪ねた際、遊びに行った記憶がよみがえり、懐かしくなりました。

情報番組では、記念のイベントなどを紹介していましたが、パーク内にある日本食レストランでの食レポで気になるものがありました。

レポーターが、「割り箸に『おてもと』って書いてある」

さらっとひと言。

表記までは見えなかったので、「おてもと」なのか、「OTEMOTO」なのかは不明ですが、海外の皆さんにお箸の文化を知っていただくのはとてもよいことだと思います。

その様子を見ながら、「おてもと」と言っても、海外の皆さんはもちろんですが、若者に通じるだろうか・・・割り箸など使い捨ての箸のこととは知っていても、なぜそう言うかは知らないかも・・・と思ったのです。

袋に入った割り箸などに書かれている「おてもと」という言葉は、普段よく目にしているかもしれませんが、あまり深く考えていない人も多いでしょう。

「おてもと（御手許・御手元）」とは、もともと「お手のあたり」「手のそば」という意味をもつ丁寧な言葉です。つまり「あなたの手のところにございます」という婉曲（えんきょく）な表現。直接「おはしをどうぞ」と言うよりも、少し柔らかく、控えめな言い回しです。

江戸時代、武家や公家の言葉遣いでは、「おてまえ（御手前）」など、相手の所作や手元を敬って呼ぶ言い方が多く用いられていました。

茶道で「おてまえちょうだいいたします」というのも、「あなたの手前（目の前）でのお点前（腕前、技量）を拝見します」という丁寧な敬語です。その文化が、やがて食事の場にも広がりました。客人の手元に添えるもの―箸だけでなく、懐紙なども「おてもと」と呼ぶようになったのです。

そのなかの「お手元にお置きする箸」のことを「おてもと箸」。単なる割り箸ではなく、相手への心遣いを言葉に込めた呼び名なのですね。

この「おてもと」が「お手元にございます」の省略表現として独り歩きし、現代では箸そのものを指す名詞として定着したようです。

言葉が人の心遣いを象徴しながら、やがて名詞に変化していく・・・日本語らしいやわらかな進化の仕方です。

そして、もう一つ小さな発見。

箸袋に書かれた「おてもと」は、実は「お客さま目線」よりも「お店の気遣い」を表す言葉。「どうぞお使いください」ではなく、「お手元にございます」―そこには、さりげなくも控えめな日本人の美意識が宿っています。

ほんの一膳の割り箸にも、言葉の歴史と心遣いの文化が息づいています。

「おてもと」というやさしい言葉。食卓に置かれた小さな箸は、人と人とをつなぐ“かけ橋”のような存在なのかもしれません。

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