先日、授業終わりに女子学生から声をかけられました。

学生「先生、このまえ、アルバイトでお辞儀を褒められました」

田巻「そうなの！よかったですね。どんなアルバイト？」

学生「ラーメン屋さんの接客です。お客さんが帰るときに、必ず店の外まで出てお辞儀するのが決まりなんです」

田巻「へ～。おもてなしが丁寧なお店なんですね。誰に褒められたんですか」

学生「そのお店はチェーン店なんですが、他のお店の店長さんに褒められました。他のお店の方に褒められることはめったにないので、嬉しかったです」

田巻「それは嬉しいですね。授業の成果が現れましたね」

学生「はい。ありがとうございます。見ていてくれている人はいるんだなと思いました」

田巻「きっとお客様にも、気持ちのいい接客は伝わっていますよ」

大学の教壇に立って１５年。「ビジネスマナー」の授業の始まりと終わりには、必ずお辞儀をし、１年間で体に叩き込んでもらいます。

卒業生からの連絡はもちろんですが、実際に教えている学生たちからの反応は嬉しいものです。アプリ上で感想の提出を課しているので、そこに書けば済むことですが、直接言いに来てくれること自体が嬉しいではありませんか。

その他にも、アルバイトで言葉遣いを褒められた、就活でお辞儀が役に立ったという報告もよくあります。たまにその感想を取り上げては、改めて復習をします。

最初は、「お辞儀なんて」と思っていた学生も、アルバイトや就活で役に立つと、より身に付けようと熱心になります。

そもそもお辞儀は、上位の相手に対して、最大の急所である頭を差し出すことで、敵意がないことを示しました。奈良時代以前に中国から伝わったとされ、中世に武家礼法として形式化し、相手に敬意を伝える所作となっていきました。

学生が興味を持っているときに、さらにこんな話をします。

「お辞儀の語源」です。

「お辞儀」を辞典で引いてみると、「挨拶すること、頭を下げて礼をすること」とあります。しかし、お辞儀の「辞」と「儀」をそれぞれ見てみても、「辞」は言葉、「儀」は、作法や礼儀などで、どこにも挨拶とは書かれていません。

語源由来辞典によると、「お辞儀」の語源は、「時宜（じぎ）」という言葉とされています。

物事を行うのにちょうどよい時期を意味する「時宜（じぎ）」で、「辞儀」の表記は江戸時代から。平安時代には本来の意味で使われていましたが、鎌倉・室町時代には様々な意味で使われるようになりました。

「ちょうどよい時間・頃合」の意味から、「時間」の意味が希薄になり、「物事が成立するのにちょうど良い状況・事態」の意味へ。

さらに、「状況に対する考えや気持ち」「状況を見極めて対処すること」を意味するようになり、考えや気持ちなどを表す用法から、積極的に物事に関わる意向の意味が生まれ、この意向が他人への配慮や心配りになり、中世末期には挨拶の意味になったとされています。

挨拶に伴い頭を下げる動作の意味に限定されるのは、江戸時代後期になってからのようです。

状況をきちんと見極めて遠慮する、辞退すること、という意味が付け足され「辞する礼儀」が頭を下げることに変化したとも言われています。相手を思い、遠慮することが、頭を下げるという意味になっていくというのはなんとも日本の文化を感じさせます。

お辞儀については、このメルマガでも何度か取り上げてきました。拙著にも基本とする角度は書いていますが、正直、角度はどうでもいい、というとお叱りを受けそうですが、25度であっても32度であっても、40度であっても、極端にこだわりすぎる必要はないと思っています。

　　　　　　　拙著『改訂版　安心と自信を手に入れる！ビジネスマナー講座』より

例えばそこに「よろしくお願いします」「本当にありがとうございました」「大変申し訳ございません」という気持ちがあれば、きっとそのような角度のお辞儀になるはずです。

相手に対する気持ち、敬意がなければ形だけのお辞儀は虚しいものです。もちろん、綺麗に見えるお辞儀の練習は必要ですが、形だけのお辞儀なら練習すれば誰だってできるのです。

人はそこからにじみ出てくるものを見ているのでしょう。マナーは心の表れですから。

しかし、誰もが最初から綺麗できっちりした、しかも心まで伝わるお辞儀ができるわけではありません。だからこそ、練習では形から入ります。「形には心が伴う」からです。

さて、まもなく、夏の高校野球が開幕します。高校球児は試合後、応援してくれた人だけでなく、相手チームやその応援席、グラウンドにも礼をして気持ちを表します。そこに至るまでの言い尽くせない気持ちが、お辞儀となって表れるので、見ている人の心を動かすのでしょう。

いつもこのメルマガを読んでくださる皆様へ。心を込めて45度のお辞儀をします。

想像してください・・・

拙著『改訂版　安心と自信を手に入れる！ビジネスマナー講座』が発売されて4か月で重版が決定ました。