〇たらし
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「〇たらし」の〇に漢字一文字を入れなさいと言われたら、何を入れますか。
例えば、“女”という語を入れて「女たらし」だと、何人もの女性を巧みに誘惑してもてあそぶこと。また、その男性。おんなったらし。という意味です。
では、「人」を入れて「人たらし」はどうでしょう。女が人に変わっただけなので、男女関係なく「人をだますこと」となります。日本国語大辞典にも、「人をだますこと。また、その人」とありますが、この「人たらし」という言葉は、最近、別の意味でも使われます。
NHK大河ドラマの登場人物紹介では、豊臣秀吉を、「驚異的な頭の良さで、いつも早口。明るく“人たらし”で、巧みに人の心に入り込む」と説明しています。
この場合の「人たらし」は、多くの人に好かれる、とりこにしてしまうといった意味です。となると、本来の意味とは正反対といえるでしょう。
ここ数年よく聞くようになったので、田巻は最初、違和感を覚えたのですが、皆さんはいかがでしょうか。
辞書では、「人誑し(ひとたらし)」という表記だけを示しているものが多く、「誑」という漢字は、訓は「たらす」で、たぶらかす、あざむくという意味です。
「人たらし」は、まさに人のことをだますということで、「女たらし」「男たらし」という語でもわかるように、決していい意味ではありません。甘い言葉や色仕掛けでうまくだますという意味の「たらし込む」という言葉でもよくわかります。
ところが近年、「人たらし」はプラス評価で使われることが増えています。というより、本来の意味で使っているのを見たり、聞いたことがありません。
特に、婚活や恋愛指南サイト、コミュニケーションや心理などを取り上げるサイトでは、「人たらし」になるためにどうしたらいいか特集もしています。そうなるとますます、本来とは正反対の“いい意味”が定着してしまうのでしょうか。なぜ、この使い方が広まったのでしょう。
辞書編集者の神永 暁氏は、新しい意味の「人たらし」は、作家の司馬遼太郎が使ったために広まったといわれていると記しています。
さらに、こうも言っています。
「司馬によって新しい意味が付け加えられた『人たらし』だが、この新しい意味も誤用ではないと思うので、いずれ多くの人に好かれる、とりこにしてしまうという意味を追加したいと思っている」
現に、デジタル大辞泉には、
1 多くの人々に好かれること。また、その人。
2 人をだますこと。また、その人。
と書かれています。
田巻個人としては、「人たらし」をいいイメージで使うことに違和感がありますが、多くの人が使うことで慣れていくのでしょうか・・・この言葉遣いについては、今後も注意してみていこうと思っています。
ちなみに神永氏によると、司馬遼太郎が「秀吉は人たらし」と表現したことで、秀吉にそのようなイメージが定着したのは間違いないと言っています。
まったく反対の意味を定着させ、歴史上の人物のイメージもつくりあげた司馬遼太郎。改めて、すごい人物だと思います。明るい性格だったという司馬遼太郎ですが、自身もやはり、人たらしだったのでしょうか・・・
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