「爆笑」問題

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「『爆笑』問題」と言っても、お笑いコンビのことではありません。今回は、「爆笑」という言葉の意味に注目します。


大学の授業で毎年取り上げる、文化庁の国語に関する世論調査。さまざまな言葉が、本来の意味ではなく誤用されていることが多いものです。



今年発表された2021年度の結果でも、「姑息」について、本来の意味「一時しのぎ」と答えたのは17.4%。本来とは異なる「ひきょうな」は73.9%で、本来の意味よりも浸透しています。


大きな声を表す慣用句として、本来と違う「声を荒らげる(あらげる)」を使うと答えた人が79.7%。しかし、正解は「声を荒らげる(あららげる」です。12.2%と少数でした。




そんな話をした授業のあと、学生からこのような感想がありました
「今一番気になるのは爆笑です。最近は一人で大笑いしているときも爆笑が使われます。この言葉はどんな変化をするのか、それともしないのかとても気になっています」。

 

「爆笑」をどのような意味で使っていますか。この学生は、「爆笑」という言葉は、そもそも「一人」で笑うときには使わないことを知っていると読み取れます。実はこの言葉は、辞書に翻弄され、数奇な運命をたどった言葉なのです。ちょっと大げさに言ってみました。



2018年1月に10年ぶりに改訂された『広辞苑』の第七版。10年もすれば、新しい言葉も増え、以前から載っていた言葉にも変更が加えられます。

そこで注目されたのが「爆笑」です。第六版と七版では、説明文が大きく変わっていて、これは大事件です。




『広辞苑』第六版 大勢が大声でどっと笑うこと。
『広辞苑』第七版 はじけるように大声で笑うこと。




なんと!旧版には「大勢で」と人数の指定がありましたが、新版ではそれがなくなっているのです。
ということは・・・「一人でも爆笑できる!一人でも爆笑と言ってもいいよ!」と、あの広辞苑が言っているのです。

これまでは、爆笑は、大勢で笑うときに使う言葉で、田巻も学生にそう説明したことがあります。
しかし、新版で訂正されてからは、数奇な運命の言葉として取り上げています。



しかし、今でも、「大勢で/一斉に笑うこと」のように説明する国語辞典がまだ多数派です。そのため、「爆笑は本来一人ではできない」と指摘されてきました
国語辞典編纂者の飯間浩明氏は、以下のように発信しています。
「『広辞苑』の「爆笑」項目は、旧版<大勢が大声でどっと笑うこと>→第七版<はじけるように大声で笑うこと>と手入れされました。「大勢」をやめたのは、ことばの意味が変化したからではありません。本来、笑う人数は何人でもよかったという歴史的事実を踏まえたものと見られます」。


なぬ!
90年ほど前の使用例でも、一人で大笑いしていると捉えられるものがみられるというのです。「爆笑」は比較的新しい言葉で、昭和に入った頃から使われ始めました。実は、この当時から主語が一人でも使える言葉だったようです。

以下です。
「そして彼は陰欝に爆笑した」(徳田秋声による小説「町の踊り場」/初出1933年)
(※主語は「彼」。明らかに一人で爆笑しています。)

広辞苑の辞典編集部によれば、「誤りだと言われてきた意味・用法でも、昔の文献に当たって必ずしもそうでないとわかったものは、書き方を変えた」とのことです。
誤用により「一人で爆笑」が可能になったわけではなく、そもそも「爆笑」には「大勢で」という意味が含まれていなかった・・・


では、どうして人数制限が生まれてしまったのでしょうか。
それは「どういうわけか、『大勢で』と加えて載せてしまった辞書が複数あったため」だというのです。

辞書が間違ってしまったことで、使用可能な意味が誤用として扱われるようになったとは・・・


未だに何を信じていいのかわからない、まさに「爆笑問題」でした

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